『置戸営林署庁舎』現場の高度技能と工場の高度技術の連携

『置戸営林署庁舎』現場の高度技能と工場の高度技術の連携

『置戸営林署庁舎の掲載誌【新建築1979年2月号260頁】で、黒川哲郎は、

「アルバイトをしていたレーモンド事務所の、丸太材の構造に合板の壁・天井仕上げという住宅は、間伐材を使った経済性だけでなく、近代と伝統、洋と和の文化的融合を感じさせた。今回の営林署の設計では、より現代的な構法と空間の展開として試みた。中径木丸太は、繊維構造を余さず使う合理性と、素材の自然の姿の生命感豊かな表情をもっている。‥‥エゾマツとトドマツは、共に枝節が多く、元口と末口の差もあり、ヤニ壺の気になる決して優等生的素材ではないが、銘木的雰囲気は微塵もなく、厳しい環境を生き抜いてきた逞しさ、おおらかさを漂わせ好感がもてる。カラマツの下見板も節が多く、洗練された日本の木の美学に沿うものではない。しかしこうした型にはまらない仕上げの感覚を背景とすることで、構造に自然の精気と現代技術の生気を与えたいと考えた」と、優等生でない素材を前にしてのワクワク感を語っています。

「‥‥接合部をホゾとする伝統的な木造の解決が今さらのように合理的な優れたものとして見えてくる。このホゾの引張応力部分のボルトへの置き換えによって、断面欠損を最小限とすることが、私がホゾ+引っ張りボルトにこだわる最大の理由だ。そしてそのジョイントを集成材とすることで、接合部の構造的精確さ、仕口加工の標準化、接合部の多種少量の部品化など、さまざまな合理的解決が可能となる。この「集成材ジョイントを用いた丸太立体トラス構法」は、国産材需開発の試みだが、構造的新奇性そのものが目的ではなく、豊かな自然の中においてなお、建築の中に自然を編み込む試みである」と述べています。

「こうしたまったく新しい構法の施工では、とりわけ上棟までは、全体像の把握、空中で傾きを持つ座標の確認、建て方で起こり得る問題の予測等に、時間も神経も費やされた。大工が冶具をつくり墨付けした集成材の機械加工など、現場の高度技能と工場の高度技術の連携も必要であった。」と苦労を吐露するものの、「設計、施工共に次の飛躍への蓄積を十分に得ることができたし、中スパン・中層の木造建築の適正技術として開発したこの「構法」が、空間デザイン優先のものとなり得ることも確認できたと」と木造建築が新たな表現を生むことへの自信もみせています。

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