山林に、国土・水源・環境の保全機能を果たさせるために

山林に、国土・水源・環境の保全機能を果たさせるために

建築のミッション』2012年3月(鹿島出版会)の、今回はまえがきから。

「2012年施行された『森林・林業再生プラン』は、作業路網を拡大して伐採の機械化を図り、木材・住宅産業の大規模需要に結びつけようとするものです。けれども、路網と機械は、間歇的な施業(せぎょう=植林・下刈・間伐・主伐)の前提ではなく、雨が降れば、作業路は排水路と化し、渓流河川を土砂のダムとしています」と林業政策への疑問を投げかけ、

「山林に、国土・水源・環境の保全機能を果たさせるうえで最も重要な課題は、資源活用との両立です。そのためには、植林から主伐、再植林への『循環的林業』を成立させる『建築用材活用』を、間伐材や高樹齢材を含め如何に再生するかであり、そこに求められるのは、日本の住宅や建築の【あり方】とその【構法】と、日本の山林の主体をなす杉の【建築用材としての特性】の三者の整合です。‥‥

1980年代に始まった『木造建築技術開発プロジェクト』に引っ張り込まれた私は、集成材に出会い『大断面』への手掛かりを得ました。1984年に民家の『差し鴨居』の仕口を知り、断面欠損の解消や、構造計算式化など、その現代化を図り、木造ならではの半剛接軸組=スケルトンドミノ構法を開発し、13件のケーススタディを重ねました。1990年代から、国産材需要開発のために、皮剥ぎ自然乾燥丸太を用い、地域の材と地域の技で天蓋を描くトラス架構=スケルトンログ構法ケーススタディを全国に36件重ね、この30年間、具に日本の林業の問題点を見聞きしました」と記しています。

2つの木構法の30年にわたる黒川哲郎のブリコラージュは、【あり方】【構法】【用材の特性】の三者の整合を求め続けたものでした。そして本文の最後に

スケルトンドミノスケルトンログとを組み合わせて現代の日本の木の家と木の建築をつくり、林業と建築を結べば、日本の山林は資源化し、循環的な活用が可能となると強く確信しています」

と結び、確かな手応えを感じているようでした。

そして、土砂災害のニュースを見る度に、山の荒廃を嘆き、「循環的林業を成立させるのは建築家のミッションだ」と決意を新たにしていました。

*出版時には、あえて森林という言葉を使っていましたが、常々「日本にはドイツのような森林は存在していない」と言っていましたので、ここでは「森林」を「山林」に置き換えました。

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